キキョウの花・キキョウの根

 秋の花という印象が強いキキョウですが,実際には6月頃から咲き始める花期の長い植物です。青紫の花は,決して華美でなく,清楚な印象です。漢字では「桔梗」と書き,蕾の形状から「バルーンフラワー」の異名もあるそうです。

 秋の七草の一つとしても有名ですが,山上憶良が詠んだ万葉集の二歌がその由来とされています。『秋の野に 咲きたる花を 指折り(およびおり)かき数ふれば 七種(ななくさ)の花』『萩の花 尾花 葛花 瞿麦(なでしこ)の花 姫部志(をみなへし) また藤袴 朝貌の花』

 萩の花はマメ科のハギ,尾花はイネ科のススキ,葛花はマメ科のクズ,瞿麦(なでしこ)はナデシコ科のナデシコ,姫部志はオミナエシ科のオミナエシ,藤袴はキク科のフジバカマとなるのですが,朝貌の花に関しては当時日本にアサガオがまだ存在しなかったことから諸説あり,キキョウ科のキキョウとするのが有力です。

 秋の七草は季節の花を愛でる表現であり,春の七草が初春の食文化と結びつくのとは趣を異にします。ただ,それぞれに薬用とされてきた歴史があり,とくにクズの根である葛根(かっこん)とキキョウの根である桔梗(ききょう)は現在の日本でも多用される重要な生薬です。

 桔梗は痰を切り,咳を鎮め,排膿を促す働きがあります。最も単純な処方に桔梗湯があり,桔梗と消炎の作用がある甘草(かんぞう)の二薬からなります。また膿がたまってはれている状態に用いる排膿散(はいのうさん)は桔梗の他,芍薬(しゃくやく・シャクヤクの根)と枳実(きじつ・ダイダイの幼果)を含みます。このようなシンプルな処方は,比較的急性の症状に短期間,頓服的に用いられることが多いです。慢性の症状に対する処方は,体質への考慮が深くなされるため,多種の生薬が組み合わせられて複雑になります。長引く咳や痰,化膿には,体調を調えて免疫力の回復を図る生薬とともに,鎮咳去痰,消炎排膿などの生薬を配合します。

 私が中国南京に留学していたとき,滞在する宿舎には韓国人留学生が大勢いて,彼らには専属の料理人がいました。宿舎には共用の調理場があって,私も時折利用していたのですが,その一角で水をはった洗面器にキキョウの白い根がさらしてあるのをよく見かけました。韓国ではキキョウの根を「トラジ」と呼び,定番の食材です。苦味が強いため,長時間水にさらす必要があるとのことでした。
画像の説明
写真:キキョウ科キキョウ
   根を乾燥したものが生薬の桔梗