体内で発生する風

 先月の本稿では,ウイルスや花粉など,カゼ様症状を生じさせる目に見えない外敵を風邪(ふうじゃ)と認識するというお話をいたしました。今回は外から侵入するのではなく,体内で発生する風についてお話しします。

 外から入る風邪(ふうじゃ)を外風(がいふう)と呼ぶのに対し,体内で発生する風は内風(ないふう)と呼び,区別します。内風による症状を挙げますと,めまいやふるえ,筋肉の引きつりなどがあります。です。屋外で強風に当たれば,立っていられず,しゃがんだり伏せたりします。ところが強風や地震でもないのに揺れを感じ立っていられなくなってしまう現象は,体内に発生した風によるのだと考えたのです。

 自然界の風は空気の移動です。空気は気圧の高い所から低い所へと流れます。では体内の風はどうして生じるのでしょう。

 漢方の古典に,「諸風は皆肝に属する」という言葉があります。五臓六腑の一つ「肝」に原因があるというのです。漢方の認識では「肝」の重要な役割として「疏泄(そせつ)」や「蔵血」があります。

 「疏泄」とは気の巡りを良くして,内臓同士の連携をコントロールすることで,しばしば現代医学の自律神経にたとえられます。自律神経が精神的ストレスの影響を受けやすいように,「肝の疏泄」もストレスの影響を受けます。緊張で手や声が震えるのは,精神的な抑圧で気の流れに異常が生じ,体内で気圧変化が起こった結果といえるでしょう。

 「蔵血」は血を蓄えること。とくに昼間循環している血液は夜に「肝」に戻ってきます。この蔵血作用が失調して血の不足を生じると,様々な症状が発生します。脳が養えなくなると頭がふらつきます。神経や筋肉も血による栄養が拠り所であり,血の不足で適応能力が衰え,けいれんや引きつりが生じます。まぶたがピクピクとけいれんしたり,ふくらはぎや指などがつるのも,血の不足と関連することが多いです。漢方でいう血の不足は必ずしも現代医学の貧血とは限りません。蔵血作用の失調を引き起こす原因には,睡眠不足や月経・出産・怪我・手術などによる失血,消化吸収力の低下,緊張(疏泄の亢進)による消耗などが考えられます。

 漢方生薬の中には体内の風を鎮めるとされる熄風薬(そくふうやく)という分類があります。熄風薬と併せて血を補うことが内風対策として重要です。時に血の流れや水の流れが関係するめまいなどもありますので,漢方薬をご利用の際は専門家とご相談ください。
tenma (2)
写真:熄風薬の一つ天麻(てんま)
ラン科オニノヤガラの地下茎を乾燥したもの