冷えや痛みに有効な生薬「附子」

 狂言『附子(ぶす)』で,主人は太郎冠者(かじゃ)と次郎冠者に「この桶の中には附子(ぶす)という猛毒が入っているから注意せよ」と言い置きして留守を任せますが,二人は怖いもの見たさから桶のふたを取ってしまいます。すると入ってたのは砂糖。二人は桶を取り合いながら食べつくしてしまいます。その言い訳の言動が次の有様。主人秘蔵の掛軸や茶碗を滅茶苦茶にし,やがて主人が帰宅すると二人揃って泣き出し「お留守の最中に居眠りをせぬよう相撲をとっているうちに,大切な品々を壊してしまったので,死んで詫びようと猛毒の附子を食べたがまだ死ねません。」主人は怒り,逃げる二人を追いかけて終わります。

 さてこの附子,現在は「ぶし」と呼ばれますが,毒草として知られるトリカブトの根です。トリカブトは毒性が強いために昔から世界中で中毒事故や矢毒に利用された記録などがあり,様々な物語にも登場します。

 ところが漢方では古くから生薬として多用され,虚寒証(きょかんしょう:抵抗力が低下し,体が冷えている状態)における,痛みや麻痺,感冒などの諸症状に適応します。

 この強い毒性を持つ附子を薬として用いるために,昔から中国でも日本でも様々な減毒技術が研究されています。塩水につけたり,石灰をまぶしたり,加熱処理,高圧蒸気処理などが行われます。

 この高圧蒸気処理による減毒法で1963年に日本で初めて製法特許を取得した三和生薬株式会社は宇都宮の平出工業団地に本社・工場を置いています。北海道の専用農場で独自に品種改良をしたトリカブトを栽培し,附子を含む漢方処方の製剤に注力しています。

 慢性の痛みに対する漢方治療では,血流を改善する,体を温める,筋骨を丈夫にするといったことを状況に合わせて行います。とくに冬場は寒冷の気候のために血行障害や筋肉の緊張などが引き起こされ,痛みの悪化を見ることがしばしばです。そのような時に附子を含む方剤が活躍します。ほんの少量の附子でも奏効を現すことがあり,先人達が苦労して減毒化をなしえたことに感謝せずにはいられません。

 減毒した附子ですから,安心・安全に使用できるようになりましたが,それは適切に用いてこそです。薬としての性質はやはり強いと言えます。とくにのぼせや動悸のある場合には慎重に使用する必要があります。

戻る