半夏生(はんげしょうず)の頃

 1年を約5日間ずつ,72の時候に分けた暦に七十二候があります。今年の7月1日から5日までは七十二候の「半夏生(はんげしょうず)」に当たり,半夏という草が生える頃とされます。

 半夏は一般にカラスビシャクと呼ばれるサトイモ科の植物で,実際にはもう少し早い時期に,茎を伸ばして独特な形態の花を咲かせます。地下には白くて丸い塊茎を生じ,この部分が漢方の重要な生薬の一つなります。半夏という名称は元来中国での植物名であり,日本では生薬名として使われています。カラスビシャクは田畑や道端にも雑草のごとく生え,また「半夏生」の時期は田植えを終える目安とされるなど,農作業との関係の深さがうかがえます。

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 ここ数年,7月初旬ともなれば猛暑も珍しくなく,熱中症の予防対策が重要です。熱中症では脱水症状による体温上昇が起こります。発汗量の多い環境下では,水分やミネラルをこまめに補充することが大切です。

 漢方薬にも脱水症状を予防する処方があります。まず挙げられるのは五苓散(ごれいさん)という利水作用に優れる処方です。利水作用というのは体内の余分な水分を尿として排出するため,逆に体内の水分量が減ってしまうように思いますが,五苓散は不思議なことに水分を必要以上に排出させることはありません。体内に停滞している水分を血管内に引き込み,全身の水分バランスを改善することによって脱水を防ぐと考えられます。

 ときに水分をたくさん摂れない人もいます。無理して水分を摂ると,体が重くなったり,胃腸障害が生じます。漢方の知恵では,舌の形がぼってとした様子で,さらには縁に歯型ができている人や,舌の上に生じる苔の厚い人は,水毒があり,水分の摂取には注意を要すると考えられています。そのようなときこそ五苓散やその類似処方が体質改善も兼ねて用いられ,とくに舌苔の厚い人には前出の半夏が有効です。ちなみに半夏には強いえぐみがあり,そのままでは服用できません。漢方ではそのえぐみを消去する工夫をして使用します。

 次にご紹介したい処方は生脈散(しょうみゃくさん)です。この処方は体に潤いを与え,また余計に水分が漏れ出るのを防ぐ働きがあります。疲れやすい人の体力補給にもなります。

 熱中症の予防対策と一口に言いましても,個々の体質や状況を考慮しなくてはなりません。体質的な問題があれば,漢方薬の使用をご一考ください。