新発見に裏付けされる漢方の知恵

 今年3月,ある科学誌に,人体で最大となる器官が見つかったという論文が発表されました。その器官とは間質と呼ばれる部分で,全身の組織と組織の間の空間をさします。間質は間質液という液体で満たされています。間質や間質液は今までも存在は知られていたのですが,単なる空間ではなく,機能をもった器官であるということが新に分かったということです。

 その機能は,「液体を運ぶ」ことと「衝撃を吸収する」ことの二つで,液体の流動の詳細が分かれば,がん細胞の転移や他の病気の発見・治療に役立つ可能性があるとされています。

 これまで最大の器官とされた皮膚が体重の16%を占めるのに対し,間質は体重の20%に及ぶとのことです。

 このニュースを見たときに私が思ったのは,漢方に伝わる人体組織「三焦(さんしょう)」が間質に相当するのではないかということです。三焦はいわゆる五臓六腑の一つです。五臓は肝・心・脾・肺・腎の五つで,六腑は胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦の六つです。臓と腑の違いは,臓が中身の詰まった実質的な器官であるのに対し,腑は中空で代謝物の通路となります。三焦以外の臓腑は,現在の医療現場でも通用する臓器名の中に対応するものがありますが,三焦に関しては対応する器官はなく,胸腹部全体の広い空間を指すとされていました。横隔膜より上を上焦,横隔膜と臍部の間を中焦,臍部より下の下腹部を下焦とし,この上中下を合わせて三焦と呼ぶのです。三焦は気や水液の通路とされています。三焦の位置,形態,役割などを考えますと,冒頭の「間質」の新知見は,三焦の認識の妥当性を裏付けるものと感じるのです。

 二千年前にはこれら五臓六腑の存在,役割,連携などについて漢方的な認識はできあがっていたと考えられます。それぞれの臓腑がどのように働いているのか,現代のような科学的・医学的機器がない環境で突きとめていった先人の観察眼には大変感心いたしますが,とりわけ三焦のように塊でも管でもない組織をいわば想定し,適切に役割を当てはめた知恵の深遠さには恐れ入るばかりです。

画像の説明
図:『類経図翼』内景図
明・張景岳(1563-1640年)著