春の養生

 3月5日は二十四節気の啓蟄(けいちつ)です(2009年に筆記)。虫たちが冬眠から覚めて動き出す時期とのこと。二十四節気は一年を気候の変化によって分けた暦ですが,さらに細分した七十二候という暦では,現在は「草木萠動(くさきめばえいずる)」に当たり,啓蟄の日に「蟄虫啓戸(すごもりむしとをひらく)」,そして「桃始笑(ももはじめてわらう)」「菜虫化蝶(なむしちょうとかす)」と五日ごとの春の移ろいを表しています。

漢方の古典『黄帝内経(こうていだいけい)』

 約二千年前に書かれた『黄帝内経』という医学書では,春を次のように表現しています。「春は,万物が新しいものを発する季節。天地の生気が発動し,全ての物が生き生きと栄える。」上述の暦のお話と一致します。『黄帝内経』ではさらに養生法が述べられます。「人々は少し早く起きて庭に出てゆったりと歩き,髪を解きほぐして体をのびやかにし,心持ちは活き活きと生気を充満させて,生まれたばかりの万物と同様にするがよい。人間も自然界の一部と考える中国医学の基本が貫かれています。そして「ひたすら成長を促し,邪魔をしてはならない。大いに心をはげまし,体をしいたげてはならない。春の道理に反すると肝を損なう」と続きます。肝は五臓六腑の一つで,働きは血を蓄えたり,自律神経系を調整するなどと解釈されます。

現代の春-心身のバランスを整える

 ところで春はうららかなイメージがある一方で,「春一番」「三寒四温」という様に気候の変化が激しく,また生活面では年度の変わり目となり忙しい時期でもあります。ただでさえストレスの多い現代社会にあって,とかく心身のバランスが崩れやすい季節です。実際この時期には,気分がイライラして落ち着かない,動悸や不眠が悪化するといったご相談が多くなります。春に本来伸びやかになりたい心身の気が,ストレスなどによって押さえつけられていると考えられます。

 このような時,心身の気を発散させる漢方薬として逍遙散(しょうようさん)が使われます。逍遙とは気ままに散歩することを意味し,まさに春の養生に適っています。逍遙散の構成を見ると,肝の働きを調整する柴胡(さいこ)や薄荷(はっか)などが主薬です。薄荷はハーブのミントの一種です。香りの良い食品やお茶は,食養生の上でも気の発散(=リフレッシュ)に役立つとされています。

 また肝を養う味は酸味とされ,イライラなど神経の高ぶりを抑える味は苦味といわれます。ですから風味豊かな春の山菜や酢の物を食事に採りいれ,春の野山を散歩する。自然界の一部であることを満喫できれば,とてもよい養生になるでしょう。

※実際に漢方薬を服用する場合は,専門家とよくご相談下さい。

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