暑邪・湿邪対策の漢方薬

 私が留学していた中国の南京は、重慶、武漢とともに中国三大ボイラーと言われるほど、夏の暑さが厳しいことで有名です。三都市とも長江流域の内陸部に位置し、湿度も高くなります。宿舎には空調がなく、部屋に扇風機が一台。夏前に渦巻きの蚊取り線香を数枚渡され、これで夏を乗り切れるのかと不安でした。帰国して16年にもなりますから記憶もやや曖昧ですが、思い起こしてみるとあまり暑さは苦にならず、むしろ夜中の蚊に悩まされたことを覚えています。南京の最高気温の記録としては40℃を超えたこともあるようですが、留学当時は宇都宮とさほど変わりがなかったという印象です。

 それにしましても最近の夏の酷暑には恐ろしさを覚えます。漢方ではしばしば自然の理に適った生活が理想といいますが、文明の利器に頼らなければ命の危険さえあることも痛感する日々です。

 さて、暑さや寒さ、風、湿気、乾燥などの自然現象は、屋外ならば普通に存在するものです。時に恵みとなることもあれば、体調不良や災害の原因となることもあります。これらが人体に不調をもたらすとき、それは自然の気が邪気と化したことによると漢方では考えます。寒さで引き起こされる寒気や痛みは寒邪(かんじゃ)の影響、外気の乾燥による肌のかゆみや咽の乾燥は燥邪(そうじゃ)の影響といった具合です。高温多湿の夏に問題になるのは暑邪(しょじゃ)と湿邪(しつじゃ)です。

 暑邪による発熱・発汗・口の渇きなどに対応する生薬は解暑薬(げしょやく)と呼ばれ、蓮の葉である荷葉(かよう)や緑豆(りょくず・りょくとう)、西瓜(すいか、生薬名は「せいか」)や、黒大豆のもやしから作られる豆巻(ずけん)などがあります。西瓜は赤い果実だけでなく、薬用としては皮も利用されます。暑さ対策に良いのならと、西瓜をたくさん食べたくなりますが、教科書には多食してはならないとの注意も書かれています。

 湿邪による症状は、湿気だけでなく飲水過多によることもあり、食欲不振や下痢、吐き気などの胃腸障害が多く該当します。対応する生薬は化湿薬(かしつやく)と呼ばれ、代表処方の藿香正気散(かっこうしょうきさん)は即効性を感じやすいシャープな処方といえます。

 解暑薬や化湿薬のほか、夏ばての状態には体力や潤いを補う処方が必要です。清暑益気湯(せいしょえっきとう)や生脈散(しょうみゃくさん)などが有名です。ご利用の際には医師・薬剤師などによくご相談ください。