漢方とは,中医学とは

 まず,『漢方の歴史 -中国・日本の伝統医学-』(小曽戸 洋(北里大学総合医学研究所) 大修館書店)からの抜粋です。

 中国に起源を持ち周囲に広まった東アジア伝統医学を,従来日本では「漢方」と称してきた。中国ではこれを「中医学」と称している。しかし今日では若干違ったニュアンスで解されているようである。以下少し整理しておこう。

 「漢方」という語は和製用語で,蘭方(オランダ医学)ないしは和方(日本固有の医学)に対して作られた言葉である。「漢」とは,漢字とか漢文などという用例と同じく,この場合中国と同義語である。特別,漢時代を指すわけではない。また,「方」とは方技もしくは方術の略で,医学の意である。

 一方,中国で「中医学」というのは中国(伝統)医学の略称である。したがって「漢方」も「中医学」も,もともと中国伝統医学を指していった同義の異国語にほかならない。しかしながらとくに近世以降,それぞれの国において独自の展開をみたこともあって,今日では「漢方」といえば日本化され,現代日本で行われている伝統医学,また「中医学」といえば現代中国で再整理され行われている伝統医学といった意味合いで,本来とは違った感覚で用いられるようになってしまった。このような意味で用いるときには,正確には「日本漢方」「現代中医学」と称すべきであろう。この認識が浅いため,いま専門家の間でも混乱を生じる原因となっている。

 ここで述べられているとおり,現状,様々な意見があったり,誤解があったりしています。専門家の間でもです。

 日本の漢方には古方派,後世方派,折衷派などの流派があり,中国においてはさらに数え切れないほどの考え方があります。中国の経方派と呼ばれる人たちの考え方は,日本の古方派に類似します。中国の中医薬大学という伝統医学専門の大学で教育される内容は,日本の後世方派と通じるところがあります。すなわち日本と中国という国境で線引きをすることには無理が生じます。

 私は,日本でも,中国でも勉強いたしました。日本の考え方も,中国の考え方も参考にしており,国境を根拠にした区別はしません。つまり私の中では,上記の小曽戸 洋先生がおっしゃるとおり,漢方と中医学は同義語です。

 私の恩師の一人である南京中医薬大学の黄煌教授からは,
「中医学(漢方)には様々な考え方がある。勉強するときにはいつの時代の,どの地域の,誰の中医学(漢方)であるのかを意識して勉強しなさい。そしていろいろな考え方を吸収し,いろいろな経験を積み,最終的にあなた自身の中医学(漢方)を作れれば,それでいいのですよ」
と教えられ,この言葉は私にとって中医学を学習する上でのよりどころとなっています。