牡蛎(かき)と漢方

 秋・冬が旬とされる牡蛎(かき)。産卵の準備にはいる3~4月頃は栄養を蓄えて太っており、最もおいしい時期といわれています。「R」のつかない5月(May)、6月(June)、7月(July)、8月(August)は食用に適さないとされ、種類の異なる岩牡蛎が夏に旬を迎えるのとは対照的です。

 漢方でも牡蛎はなくてはならない物の一つです。とは言いましても、漢方で繁用されるのは、私達が普段食する牡蛎の身ではなく、貝殻の方です。牡蛎の貝殻を焼いて砕いたものが生薬「牡蛎‧ぼれい」となります。自律神経の興奮を抑える柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)、桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)、柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)、胃痛に用いる安中散(あんちゅうさん)などが牡蛎(ぼれい)を含む代表的な漢方処方です。牡蛎(ぼれい)の主成分は炭酸カルシウムで、そのほかにマグネシウム、鉄などのミネラルが含まれています。

 一方身の方は、漢方処方に配合されることはありませんが、食材としては世界中で楽しまれています。「海のミルク」と言われるとおり、いろいろなアミノ酸、亜鉛・鉄・セレンといったミネラル、ビタミンA・B群・Dなど、栄養が豊富です。毎日食べ続けるわけにはいきませんが、牡蛎の身の成分を濃縮したサプリメン卜を利用する方法もあります。

 前述の通り、漢方の世界では普段あまり扱われることのない牡蛎の身ですが、中国の生薬書ではしばしば牡蛎肉(ぼれいにく)の名で登場し、その薬効が述べられています。主には気(気力、体力、免疫力など)を増し、血を補い、心を落ち着かせて不眠や不安を改善するとあります。

 つまり牡蛎には、身にも殻にも気持ちを落ちつかせる働きがあることが分かります。使い分けをするとすれば,幾分極端な表現ですが、殻の方はイライラしてカーとなる気持ちを上から押さえつけるイメージです。一方、身の方は心身とも衰弱して気分が不安で落ちつかない状態に対し、体の基本となる栄養を補うことで落ちつかせていくイメージです。

 これから年度末を迎えます。いろいろと忙しくなり、心身が不安定になる方もおられるかと思います。そのような時には、牡蛎の出番かもしれません。

ぼれい
写真:生薬 牡蛎(ぼれい)

(2016年2月)