甘茶のお話

 お釈迦様の誕生日とされる4月8日、仏教のお寺では灌仏会と呼ばれるお祝い行事が催されます。インドや中国など日本以外の国々では旧暦の4月8日がその日で、慶祝の休日になる地域もあるそうですが、日本では新暦の4月8日に行われます。桜など春の花々が盛んな時期です。灌仏会はふつう花祭りなどの別称で呼ばれますが、これも日本だけの習慣だそうです。 

 灌仏会では花々で飾ったお堂に安置された仏像に柄杓で甘茶をかけてお祝いをします。また参拝者には飲料として甘茶が振る舞われます。さらには甘茶を混ぜた墨汁で習字をすれば上達すると言われたり、殺菌効果があるため害虫よけのまじないを作る、御神酒のように扱うなどの風習も残っているようです。

 私たちのような漢方薬局では、この時期が近づくと仏教系の学校や幼稚園、お寺周辺の自治会などから甘茶の注文が入ることがあります。甘茶を薬草として見ると、日本の医薬品の公定書である日本薬局方にも収載されるれっきとした薬草といえますが、その効能については大きな期待を抱いてはいけないようです。民間薬の本には、アレルギーや歯周病の改善、糖尿病患者の砂糖の代替としての甘味料といったことが紹介されていますが、甘茶だけにこれらの疾患の治療を頼れるはずがないことは明らかです。

 甘茶に似た名前を持つものにアマチャヅルという薬草があります。高麗人参と同様の成分を含むという発表があり、かつて滋養強壮の薬草茶としてもてはやされましたが、一時のブームで終わっています。ときにアマチャヅルが甘茶として商品になっているものがあると聞きますが、本当の甘茶とは植物的に全く異なる物です。甘茶はアジサイの一種でユキノシタ科に属し、アマチャヅルはウリ科に属するツル植物です。

 また甘いお茶という意味の甜茶(てんちゃ)も一時非常に有名になりました。甜茶はもともと中国では甘い薬草茶全般を指していると思われ、甘茶を含め数種の植物が甜茶として利用されています。日本では花粉症に効果があるのではないかと、バラ科キイチゴ属に分類される甜茶が広まりましたが、最近はほとんど扱われなくなっています。

 甘茶や甜茶はその甘味ゆえ、生活文化に取り入れられたのでしょう。薬効を期待するよりも、嗜好性を楽しむのが良さそうです。

 4月8日はさくら堂漢方薬局の誕生日でもあります。今年10年目に入ります。甘茶で乾杯しようかな。