紫根(しこん)報道の反響と問題点

 6月末,突如として紫根(シコン:ムラサキ科ムラサキの根)という薬草が注目を浴び,連日問い合わせが続きました。紫根が肌のシミや荒れに効果があるとテレビで紹介されたためです。テレビの反響による一時的なブームはよくあることですが,今回は異常な盛り上がりでした。

 番組の内容はある女性の体験談でした。38歳の時に心身の失調から肌が酷く荒れ,医師からは更年期障害と診断されます。紫根の煎じ液を顔に塗るようになってから肌荒れが改善し,心身も健康になり,それから10年以上経た現在も美しい肌を保っているという内容でした。私は実際の放送を見ていなかったのですが,翌朝からの電話の多さに,一体何事かとインターネットで調べて事態を知ったのでした。

 紫根は確かに昔から皮膚病に使用されます。日本では特に紫根を胡麻油で煮だし,豚脂や蜜蝋などを加えて軟膏とした物が有名で,擦り傷や火傷,痔などに有効です。また化粧品にも配合されることがあります。

 しかし紫根の煎じ液を塗り続けただけで,本当に上述の体験談のようなことが起こるのかというと,それは甚だ疑問です。外傷を除き,肌の症状は体内の問題に起因することが多く,この体験談でも更年期障害と診断されたとあるように,ホルモンや自律神経のバランスが崩れていたと考えられます。これらの状態を改善することこそ根本的な治療であり,それなくして症状の改善は望めないと思うのです。

 また,使用方法や販売方法にも問題があります。1回の煎じ液が1ヶ月分と放送されていたのですが,通常煎じ液は1~2日で使用します。冷蔵庫で保管してもせいぜい1週間でしょう。保存料も入れずに,1ヶ月も使い続けるのは,細菌の繁殖などで逆に肌にとって危険なこととなってしまいます。また薬品である以上,それに適した販売方法があり,勝手気ままに販売できるものではないのです。法的な解釈なども関わる部分があり,説明は難しいのですが,薬屋としては売りにくいものでもあります。

 こういった事情を酌むことなく,無配慮に放送されたことに憤りを感じながら,私はお問い合わせのあるたびに販売をお断りしました。

 放送から1ヵ月が過ぎ,お問い合わせも減ってきたと同時に,煎じ液が臭い,色がつく,湿疹が出たといった苦情が寄せられているという話が聞こえてきています。テレビでやっていたからとりあえず使ってみたいというお気持ちも理解できますが,まず不調の原因を探り,最適の方法を検討することが大切なのではないでしょうか。

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