菖蒲について

 5月5日は端午の節句。菖蒲(しょうぶ)の節句とも呼ばれます。日本では祝日こどもの日ですが,鯉のぼりや兜,武者人形などを飾り,特に男子の節句とされています。またショウブの葉や地下茎を風呂に浮かべた菖蒲湯にはいる風習も知られています。

 中国で6世紀に書かれた『荊楚歳時記』には,端午の日には野に出て薬草を摘み,ヨモギで作った人形を飾ったり、ショウブを門に吊して邪気を追い払うなどといった記録があります。ヨモギやショウブの葉には,それぞれ独特の芳香があり,この芳香に疫病や災害をもたらす邪気を追いはらう力があると信じられていたのでしょう。日本でも前出の菖蒲湯のほか,ショウブやヨモギを軒に吊るしたり,屋根に放り上げる風習もあるそうです。

 男子の健康や出世を祈願するようになったのは鎌倉時代のことで,武道・武勇を重んじることを意味する「尚武」という言葉と「菖蒲」が同音であったり,ショウブの葉が剣を連想させる形状であることなどがその由縁だといわれています。

 ショウブは古来,アジア・ヨーロッパの各地で薬用とされてきた記録があります。単なる邪気はらいではなく,健胃などの目的があるようです。またショウブに似た植物にセキショウがあり,同様に薬用利用されます。というより,この2種はかなり混同されてきたことが古文献からうかがえます。現在中国では,セキショウの方が香りが強く良品とされ,地下茎を鎮静,鎮痛,健胃,利尿などの生薬として,聴力障害やめまい,てんかんなどの治療に応用します。

 ところでショウブは名前の上でも,しばしばアヤメ科のハナショウブと混同されます。しかし今回話題としているショウブはサトイモ科(あるいは見解によりショウブ科とも)に属するショウブです。ショウブの花は大変地味で人目を引くものではありません。唯一似ている点が,葉の形状です。水辺に生え,剣状の葉をつけるために昔から混同され,古くはアヤメと呼ばれたとのこと。さらには「菖蒲」という文字を「アヤメ」と読ませた記録もあり,古文を読まれる際には要注意です。『伊勢物語』五十二段にある「あやめ刈り君は沼にぞまよひける」でいわれる「あやめ」は「ショウブ」のことだそうです。アヤメ科の類の葉には芳香成分はなく,邪気はらいには役立ちません。

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