葛根湯は万能薬に非ず

 昨年の暮れにテレビの人気情報番組で漢方薬が特集されました。翌日からかなりの反響が私の薬局にもあり、とくにかぜの治療で有名な葛根湯(かっこんとう)という処方を求めてのお問い合わせやご来店が多数ございました。大変ありがたいことではあるのですが、お問い合わせの内容に首をかしげてしまうことがたびたびでした。私はこの番組を録画してはあったのですが、すぐに見ることができず、数日後に番組を見て、不思議な問い合わせが続く理由を知ったのです。

 番組に登場した医師は「葛根湯は万能薬」「とくに“痛み”の症状があれば何でも効く」「落語に、かぜでも頭痛でも腹痛でも葛根湯を出す“葛根湯医者”という話があるぐらい葛根湯は何にでも使える」という趣旨のお話をされていました。この話を私は大変恐ろしく感じました。確かに葛根湯は二千年の歴史がある素晴しい処方ですが決して万能薬ではなく、使い方を誤れば副作用の危険性もあります。

 そもそも“葛根湯医者”は、医薬に関する落語が演じられる際、その前振りの小話として以下のように語られます。
 「先生、頭が痛てえんで」「ああ、頭痛だな。葛根湯を煎じて飲みなさい」「先生、おなかが痛いんでございます」「腹痛だな、葛根湯をおあがり」「先生、目が痛くて」「ああ、葛根湯をおあがり。はい、次の方」「いや、私はつきそいに来ただけで・・」「まあいいから葛根湯をおあがり」。どんな病に対しても分別なく葛根湯を用いる藪医者を滑稽に描いたものです。この話を根拠に何にでも使えるというのは乱暴な言い回しとしか考えられません。

 それでは葛根湯が単なるかぜ薬かというと、そういうことでもありません。先人達の記録を見ますと、かぜ以外にも肩こり、腰痛、下痢、視力障害、皮膚炎、乳汁分泌不足などの治療に良好が得られたという報告は確かにあります。しかし決して葛根湯医者のように安易に用いているのではありません。葛根湯の本質をきちんととらえた上でお腹や目の病にも応用しているのです。一方かぜなら葛根湯でよいかというと、こちらもそうではありません。かぜに対応する漢方薬は多々あり、症状や体質によって使い分けます。

 漢方薬に限らず、お薬はテレビなどの情報を安易に鵜呑みにせず、よく医師や薬剤師にご相談の上、使用して下さい。