蛇含草

 落語で「蛇含草」という名の草が出てくる話があります。蛇含草は山奥に住む大蛇が使う消化薬になるといいます。
 大蛇はふだん,猿やウサギを餌食にしているのですが,時に山中で人間に出くわすと,一飲みにしてしまうこともあるそうで,さすがの大蛇も人間ほどの大きなものを飲み込んでしまうと,腹がはり大変に苦しむ。そのような時大蛇は谷間に降り,蛇含草をなめ,苦しみから逃れるとのこと。話にはさらに見栄っ張りの大食らいが登場します。大阪落語では餅好きの男,江戸落語ではそば好きの男となっています。どちらも度を超して好物を大食し,あらかじめ手に入れていた蛇含草を使って食べたものを消化させようとしたところ,蛇含草はもともと人間を消化してしまう草であったため,周囲の人が気がつくと,当人の体は消え,食べ物が着物を着ていたというオチです。
 さて,蛇含草という名の薬草は中国の薬物書に記載があります。しかしこちらの蛇含草は消化を促すのではなく,蛇や虫にかまれたときの消炎や解毒などに用いられます。

消化促進の漢方薬ー焦三仙(しょうさんせん)

 漢方で実際に消化を促進させる目的で用いられるものに,山査子(さんざし),麦芽(ばくが),神麹(しんきく)といった生薬があります。山査子は中国で酸味のある果物としても常食され,肉類の消化に役立ちます。さらに最近では血中の脂質を下げる作用があることでも注目されています。麦芽は大麦を発芽させたもみを乾燥させたものです。穀類の消化に役立ち,胃腸を丈夫にするとされています。神麹は小麦ふすま(米でいうぬかの部分)や小麦粉,小豆,杏仁などを合わせて発酵させたものです。穀類,野菜,酒類などの消化を促進させるといわれています。山査子・麦芽・神麹の3つをそれぞれ表面を薄く焦がす程度に炒めて配合すると焦三仙と呼ばれる処方になります。中国医学では素晴らしい効果を持つものに「仙」の字を用います。病気の災いから人を救うという思いが込められています。
 これら消化を促進する生薬は,治療の主役になることは少ないのですが,胃腸虚弱や食欲不振を改善する処方にしばしば配合されます。
 また中国では祝いの行事などで大食する機会に,焦三仙の粉末を蜜で丸めた大山査丸(だいさんざがん)が大変に活躍します。

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