麦芽の薬用利用

 夏に好まれる麦茶やビールは大麦が原料です。5~6月に収穫された大麦は,麦茶のほか麦ご飯,押し麦の原料などとしても利用されますが,ビールを作る際には,発芽させたものを使います。いわゆる麦芽です。

 大麦に含まれるデンプンは,本来,植物としての大麦が成長するための栄養分です。発芽をすると大麦の中の酵素 アミラーゼが活性化し,デンプンが麦芽糖に変化して,成長のエネルギーとなります。人間はこの変化を利用して,ビールのほか,ウイスキーや水飴などを作ります。種子中のデンプンが糖化する仕組みは,すべての種子に共通するものですが,大麦は酵素の質や量,生産コストなどが私たちの利用目的に最も適った作物であるとのことです。

 麦芽は漢方でも利用されます。日本の医薬品を規定した公定書『日本薬局方』にも収載されており,歴とした医薬品といえます。消化を促進する目的で用いられます。有効成分は前出のアミラーゼと考えられます。アミラーゼは私たちの体内でも消化酵素として唾液や膵液に含まれる成分です。主にデンプン類を消化します。

 中国では麦芽と同様に米を発芽させたものを“殻芽(こくが)”と呼び,やはり消化薬として用います。中国医学の医師が処方箋に“二芽”と書いたらこれは麦芽と殻芽を両方同時に用いることを意味します。また山楂子(さんざし)の実は肉類の消化を助ける生薬として有名で,やはり二芽とともに使われることが少なくありません。

 日本では基本的に殻芽は使われませんが,麦芽は胃腸虚弱の人が使う処方に含まれることがあります。汎用処方としては,半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)や加味平胃散(かみへいいさん)などが挙げられます。

 麦芽には,もう一つ特殊な使い方が知られています。それは赤ちゃんに母乳をあげるのを止めるとき,すなわち断乳の際に利用します。母乳を分泌するには,体内でプロラクチンというホルモンが働きます。麦芽はプロラクチンの分泌を抑制する働きがあるようです。昔から民間的にお乳の出を抑えるとして使われてきました。また,授乳期でないにもかかわらず,プロラクチンの血中濃度が高くなる高プロラクチン血症は不妊症の原因となり,このようなときにも麦芽が利用されることがあります。

写真:生薬として流通する麦芽
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